速い一台も、優れた一杯も、ひとつの才能だけでは完成しない。
世界王者が次に選んだものづくり
ジェンソン・バトンは2009年のF1世界チャンピオンです。しかし、コーチビルトにおける彼の役割は、有名人として名前を添えることではありません。ジョージ・クーツァキスとともにブランドを立ち上げた共同創業者です。
レースでは、ドライバー、エンジニア、メカニック、デザイナーが、それぞれの専門性を一台へ集約します。性能の高い部品を並べるだけでは勝てません。全体のバランスを整え、細部を詰め、完成度を高める必要があります。
ブレンディングとの共通点
ウイスキーのブレンディングも同じです。産地や樽、熟成の異なる原酒を選び、互いの長所を引き出しながら、一つの流れをつくります。バトンがレースで培った感覚と、英国の特注車づくりの思想が、コーチビルトという名前と味わいの中心にあります。
サーキットでは、速さだけを最大にしても一周を速く走り切れるとは限りません。加速、減速、旋回、タイヤの状態を一つのバランスへ整える必要があります。コーチビルトも同様に、華やかさ、甘さ、厚み、スモークを競わせず、飲み始めから余韻までの流れとして設計します。
日本との長い関係
バトンは日本のモータースポーツファンとも長い関係を築いてきました。2011年には日本を応援するメッセージをヘルメットに掲げ、支援活動にも取り組みました。こうした背景も、日本でコーチビルトを紹介するうえで大切な物語の一つです。
東日本大震災が起きた2011年、バトンはサーキットで募金活動の先頭に立ち、シーズンを通じて「がんばれ日本」の思いを込めたヘルメットで走りました。同年の日本グランプリでは鈴鹿で優勝しています。勝敗を超えて日本の人々へ寄り添った行動は、今も多くのファンの記憶に残っています。
初めてこのブランドを知る人にとって、バトンは興味の入口です。その先で、5大産地のブレンドや味わいの設計を知ることで、一本の価値がより明確になります。
なぜ、このウイスキーを日本へ届けるのか
日本の食文化には、出汁や薬味、火入れの加減によって、素材の持ち味を引き出す考え方があります。一つの強い味で覆うのではなく、複数の要素が支え合うことで、全体の奥行きをつくります。
スコットランド5大産地の原酒を組み合わせるコーチビルトにも、同じ魅力があります。スペイサイドの果実味、ハイランドの力強さ、アイラの煙、キャンベルタウンの海を思わせる厚み、ローランドの軽やかさ。それぞれを残しながら一つの完成形へ導くからこそ、重なりを味わう日本の飲み手に伝えたい一本なのです。
人物の物語から、一本の味へ
バトンの経歴だけで購入を決める必要はありません。しかし、彼が大切にしてきた精密さ、全体のバランス、日本への思いを知ってからグラスを傾けると、コーチビルトの設計がより具体的に見えてきます。
まずはストレートで香りを確かめ、次に数滴の水を加えて変化を楽しむ。人物の物語を入口にしながら、最後はご自身の感覚で、このブレンドの完成度をお確かめください。